今日は朝っぱらから、とは言っても午前中から宅配便が来る。
勿論あらかじめ起きて待ってるなんてけなげなことは一切せず、普通にインターフォンで起こされる。
約15秒程度で着替えて事無きを得る。
送られてきたのは一ヶ月余裕で食いつなげそうな餅の詰め合わせと、親父のお古の一眼レフと、メンズのアウターだった。

あきちゃんから「美味しいよー」と言われたサッポロ一番を煮込む。お野菜をいれて更に美味しくお召し上がりになる気なんて全く無く、たんたんと麺を煮込んで喰う。
最近ご飯粒をあまり摂取していない。そんなに嫌いってわけでもないのだが、部屋の片隅で未だに全然減る気配が無い米を見ると、喰う気も炊く気も失せる。
バナナと伸びたラーメンで朝食。


さて、着替えも済んだし飯も食ったのはいいが、そこはこれ、ひきこもりな自分のことですからこれまた何の予定の無い連休二日目。明後日から自主制作が始まればそれなりに忙しくもなるのだが今日明日と余暇余暇余暇のオンパレード。うわぁああん。私は友達がいないのかぁーぃ。


悲しくなって、とりあえず今日は一日部屋の掃除をすることにする。最近私の心象風景を如実に投影したのか嘲笑せずにはいられない程に荒れ果ててしまった八畳のワンルーム。心なしか饐えた臭いすら感じる。これじゃぁ駄目だ!!

とりあえずところ構わず目についたゴミを捨てる。ワンシーズン前に買った化粧品もポイポイ捨てる。
そこで一言。けして私は物を粗末にしているワケではない。
マニキュアなんて1〜2ヶ月前に買って少し使い忘れちゃうと瞬く間に凝固しちゃうのだ。
またマスカラも10本弱有るのだが、こいつらも買ってから半年くらい立つとヒジキを通り越しておからまつげになってしまう。
あ〜〜〜もう捨てる捨てる。勿体無いと思ったらそれは直結して死に至らしめられるのだ。
親から送られてきたダンボールもボコスカ殴ってる内になんとかぺちゃんこにすることに成功。
昨日買ったファブリーズも寝具やバスマットに吹き付ける。ダニも菌も死滅してしまえ!!スマトラ沖地震並みにファブリーズの波で溺死してしまえぇえええ!!!

一通り不要な物を捨て終わると部屋は更に荒れている。うーん、整頓する際は一度全ての物を出さなきゃならないとはよく言ったもので、物はかなり減った筈なのに掃除する前より1.8倍くらい(当家比)殺伐としている。何故かそのままじゃ食べられない筈のマカロニがちゃぶ台下から出てきたりする。あり?
洋服も片っぱしから洗濯する。おばあちゃんの靴下も洗濯する。
クローゼットの中も整頓する。
ここら辺で頭痛がしてくる。慣れないことをした所為か風邪をぶり返した所為かダルさも出てくる。
空気が悪いところに長く居過ぎたせいだと無理やり思い込み近所の百均に出かける。台所用スポンジも一新したくなったからだ。


さて、百均。
「お前さぁ、わざわざ高齢の親の脛かじって上京までしたのに行くとこは毎日それしかねえの」とか言われたら、多分泣きます。心の底から。
子供達がぎゃんぎゃん泣いている。一体ここでは一日に何人の子供達が何リットルの涙を地に落としているのだろうか。小学校だったら絶対七不思議になりそうな中々凄惨な現場である。
洗濯ばさみとチビころころクリーナーや無果汁のメロンソーダ等を追加購入。

帰り道で昔、父が作ってくれたメロンソーダを思い出す。ちょっとだけ彼の身を案じる。


帰宅。
さぁまた頑張るぞー。生理用品のストックを整理したり、脱水し終わった洗濯物を干したりする。小さなアクセサリーも小分けにして、コレクションのカエルグッズも整列しなおす。しかし、よくこんなにも集めたもんだ、軽く50匹はいる。自分の部屋に100個以上何者かの目が存在することに軽く恐怖する。
昔貰った演劇のチラシを捨てる、かなり勿体無いけど。
昔買った雑誌も荷造りする、料理とインテリアとセックス関連の記事がある物以外は。
また、自分の本棚の本が、半数近くカバーが掛けられていてパッと見が
「え?これまだ絵の具塗る前の小道具の本?」
的な雰囲気をかもし出している事に気づく。
これはいかんぞ、と根気良く一冊一冊取っていく。
しかし、カバーの下から出てきた本は
【図解・人体改造マニュアル】
【裏のハローワーク】
【20世紀名言集〜大犯罪者篇〜】
【エロスの哲学】
【O嬢の物語※超SMな西洋文学】
【狂いと信仰】
【河童の飼い方】
……河童?
一通りカバーを取ってから気づいたのだが、本来カバーと言うのは「見ちゃやーよ」という物に掛ける為の物である。
中には寺山修二や銀色夏生、ボードレールと言ったごく一般的(あくまで比較的)な物も有ったのだが。
中でも一際疑問だったのが
【男のたしなみ】
という単行本。
明らかに男性用読み物の筈だが…我ながら何を思って買ったのか、その時の自分に問いただしたい。

ゴミ袋が二ついっぱいになる辺りで力尽きる。
小腹が空いたので餅を焼いたら爆発。
最早無表情で皿を洗う。

死ぬ気で餅の欠片を飲み下した後、スパゲテイを作る。
茹でてる途中で「これじゃ足りねえ」と麺を更に追加し、逆に作りすぎて食べ終えるのに閉口する。


スパゲティもメロンソーダも父が昔喫茶店をやっていたときの定番メニューだった。私は当時小学校低学年で、学校帰りに父の店によってはピザ半分とメロンソーダとホットケーキを食べたり、たまに客に品物を運んでいって媚を売ったり隠れて業務用バターに指突っ込んで舐めたり宮沢りえ写真集を覗き見たりしていた。
父は勉強はあまり教えてくれなかったが、ピザの作り方はにこにこして教えてくれた。
暫くして父は介護士になる為にその店をたたんだ。その場所に後に入った店は安っぽい居酒屋で、大抵それらの店は半年から一年のサイクルで入れ替わっていた。大体皆似たような雰囲気の安っぽい飲み屋だった。

私は父の喫茶店が結構好きだったので何度も店を止めた理由を訊いたが、父はその度に
「プピー」だの「パプー」だの言って流してきた。

中学の時漫画家を目指していて、専門学校に行くか進学するか迷っていた夜に、いつもと変わらず酒を煽りながらテレビを見ていた父が
「そんなに急がなくても、漫画家なら学校行かなくてもなれるだろう」
と言った。
私は反論しようとしたが、父は私の声は聞こえないのかぽつりと
呟いた。
「俺は、医者になりたかった」
確かに、そう聞こえた。

父は教育者の祖父に教師になるのが当たり前として育てられて来た。しかし彼は東北の高レベルの教育系大学に入ってから、暫くしていきなり中退してしまった。親族には勿論かなり絞られた様だが、それを振り切って調理師免許を取り、家を出た。

母に「親父の夢ってなんだったか知ってる?」と訊いても「コックさんでしょ」というくらいだから、父のなりたかったモノを知っている人は多くは無いのだろう。きっとその軽そうな笑顔で蓋をしてきたんだろう。今まで何も言えないまま。

私はその後進学し、演劇に出会い、自分なんか相手にされないくらいの才能を持つ人々に出会った。
勉学に関しても、両親から良心が咎めるくらい好き勝手させてもらえる費用を貰っている。

父を、たまに思い出す。
もし彼が医者になっていたら、どうなっていたんだろうか。
妻にも言えないくらいの夢を持つのはどんな気持ちなんだろうか。


私は
今、目の前に絶望が立ったとしても
それに気づかないくらい幸せな時代に生きているのだ。

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