いよいよ明日は上京する。

さぁ、もう何をやったかほとんど覚えてないからちゃちい甘酸っぱい思い出を道徳の教科書の短編集の如く書き連ねようか。

午前中に自宅として使っている父の実家から母方の実家に移る。
母が仕事に行く前に自分を送り届けてくれたのだが、なんだ?何か知らない人がいるぞ??

と、思ったら従兄弟のお兄ちゃん(と言ってももう22)だった。容姿があまりにも落ち着いてて気づかなかった。

この人は八百屋の次男だというのに極度の野菜・果物嫌いで腎臓を患っちゃったり、療養ばっかりしてるからゲーマーだと言ったのに私ににぷよぷよで負かされたりというイカした兄さんだ。
こないだまで「野菜嫌い、でもコック」になろうとしていたのだが、どんな紆余曲折が有ったか知らないが、今は小さな会社で内装業をやっているとのことだった。
ついこないだまでは金髪でピアスで一見ホストだった外見が、髪の色もぬけ、眼鏡を掛けた朴訥な青年になっていた。
とても霊媒師にスカウトされた経験がある男とは思えない。

特に話をするでもなく。だらだらと時間を過ごす。
自分はあまり母方の従兄弟と仲が良くない(というか無関心)ので、とても危うい感じの空気を感じる。
実は、もっと昔、かなり小さい頃だが、自分はこの従兄弟にさりげなく想いを寄せていた過去がある。
まぁ、想いを寄せていたっていっても、恋だの愛だのとはほど遠い本当にかすかな好意だったのだが。
具体的にどうしたいとか、付き合いたいとは一切思わなかったが、一緒に夏祭りに言ったとき、必要以上に無口になってしまったことを羞恥心を伴ってたまに思い起こしたりする。
別に話をしなくても、彼女の話を聞いても全然傷つかなかった。
ただ、年に数回見れるだけで満足していた。

今じゃぁ彼を前にしても何の感情の波も無い。
いつどの瞬間に飽きてしまったのか解らないが、ただその時の想いが死んでしまったという事実だけが鮮やかなのが悲しい。
自分は彼を通して初恋と言うにはあまりにも脆い切なさの屍骸を垣間見た気がした。

今現在の自分は恋愛を考えるとき、大抵はその人と何をしたいと思っているか、自分に問いかけることから始まる。
見てるだけでいい。話ができなくてもいい。そんな風に自分に何の関与も無い恋愛は、無意味だと思う事も多くなった。

しかし。
恋愛は幸せと必ずしも一緒に訪れる訳では無く。
また。
必ずしも自分がその恋愛において主人公になれるわけではない。
その点をよく考慮した上で言うと、
そういう【無償の愛】ならず【なんでもない愛】こそが、

人間だけに出来る恋愛の一つじゃないだろうか。

そんなことをつらつら考えつつ居眠りをしていると、従兄弟がそろそろ電車で帰る時間になる。
前は一緒に祖母からお年玉を貰っていたのに、今日は逆にお年玉をくれた。格好付けたことするな、と少し笑った。
あくびをした後眼鏡を外して目を擦る際に見えた素顔だけは、何年も前から少しも変わってなかった。
なんてことは言えるわけも無く、彼はタクシーで去っていった。

明日には上京だ。
そのためにはわずかな甘えも郷愁もここにおいていかなくてはいけない。ささやかな恋の想い出も置き去りにしていこう。

それじゃぁ、
私から離れても達者で暮らせよ。

沢山の思い出の亡者達に手を振った。

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